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「翻訳唱歌集」を聞く

カテゴリ: さまざまな音楽を聴く 地域: どこか
(登録日: 2004/07/04 更新日: 2021/10/04)

藍川由美/翻訳唱歌集『故郷を離るる歌』


翻訳唱歌集『故郷を離るる歌』
歌:藍川由美、チェンバロ:中野振一郎
収録曲:1.みわたせば、むすんでひらいて、2.蝶々、3.蛍の光、4.庭の千草、5.故郷の空、6.故郷の人々、7.灯台守、8.埴生の宿、9.別れ、10.夕べの鐘、11.旅愁、12.故郷の廃家、13.ローレライ、14.星の界(よ)、15.故郷を離るる歌、16.眠りの精、17.追憶、18.峠の我が家、19.小ぎつね、20.『ママお話して』、21.冬の星座、22.トロイカ、23.ポーリュシュカ・ポーレ、24.家路、25.大きな古時計
 

雑記帳


これもまた面白いアルバムでした。日本の近代の音楽は西洋音楽の直輸入から始まったことを再確認させてくれるものです。非常に印象的なのは、伴奏がチェンバロであること。藍川由美の解説によると、日本語との相性を考えて音が持続しないチェンバロを選んだと言います。なるほどこれには理屈があります。ただ、それはそれとして、チェンバロ伴奏は、これらが輸入音楽であるということを強く印象づけます。チェンバロは、日本の音楽と不思議に縁がなかったものでした。バロック音楽、また、モーツァルトなどのオペラのレチタティーボの伴奏としてはよく聞きましたが、日本とは無縁と思ってきた楽器がチェンバロです。そう言えば、モーツァルトのオペラでチェンバロが用いられるのはイタリア語のオペラ(『ドン・ジョバンニ』『フィガロの結婚』etc.)です。イタリア語が開音節語である点が日本語と似ているという藍川由美の指摘は、同じ開音節語の日本語の歌にも相応しい伴奏楽器となるということになるのでしょうか。チェンバロはまさに「心の琴線」に触れる響きです。

このアルバムを聞き、不思議な感覚に襲われました。明治という時代が一体どのような時代状況であったのか、そのイメージが沸々と湧いてきます。輸入音楽から始まった日本近代の音楽教育。その当初は江戸時代と大差ない社会の状況、生活様式、世界観の中で、全くの異文化である、スコットランド民謡などが全国の学校で教えられると言う、異文化との出会いを国全体が体験をしたわけです。世界に開かれた文化の窓が音楽であったかもしれないという想像はおそらくそう間違ってもいないでしょう。

それと共に極めて懐かしいものに触れているという感覚もまたインパクトの大きなものでした。私の世代ですら、この収録曲の数多くに学校で触れたものです。明治・大正期の輸入音楽が昭和の戦後期まで伝承され続けていた事実に気づきます。「郷愁」という感覚が覚醒されてきます。こうやってみると、翻訳唱歌というものは、日本文化の土壌そのものと化してきたという歴史観の認識を新たにします。伝統的な固有の音楽を捨て去り、西洋音楽の輸入と普及につとめた日本近現代の、ある意味、国家的「実験」がそこにあったと見ることができます。
 

歌のア・ラ・カルト


『夕べの鐘』
非常に懐かしい感覚にとらわれました。私が学校で学んだのは『あるじは冷たい土の中に』というタイトルです。『夕べの鐘』というタイトルは知らなかった。この曲が極めて印象深いのは、映画『東京物語』(監督:小津安二郎、1953)のラストシーンに近い場面で延々と流されていたからに他なりません。老父(笠智衆)が娘婿(原節子)に世話をしてくれた礼を言う感動的な場面に続き、学校の場面へと転換した後、延々とこの曲が流れてきます。『小津安二郎 東京物語』(リブロポート、1984)を編纂した時、その挿入歌について教科書センターに原曲を調べに行き、1953年当時の音楽の教科書で「夕べの鐘」の楽譜を発見した時には感動しました。『東京物語』中の『夕べの鐘』をあえて意味づければ、人生とは回帰するもの。輪廻的な回帰という動機づけであったと解釈できます。フォスターの曲がここまで、東洋の死生観と感覚的に合致するものとは、作曲家は思いもしなかったことでしょう。

『小ぎつね』
「♪小ぎつね、コンコン…」という、あまりにもうまくはまりすぎた歌詞。どうやってこういうインスピレーションを得たのか。解説によると明治唱歌に導入された曲が、1947年に「小ぎつね」に改訂されたと言います。とするとこの『小ぎつね』は戦後ですか。考えてみれば、こういう新たな創作ができるのは輸入音楽が原曲の特権とも言えます。

『埴生の宿』
「埴生」とは「粗末な家」の意味ですか。「埴輪」とも違う、意味不明の言葉の響きが印象的な唱歌でした。この曲は私は学校では習わなかった。原題「Home, Sweet Home」の直訳だったのでしょう。
 
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