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2-1. 開かれた知の共有体系としてのデータベースの概念

報告書目次: 第2章 地域文化情報のあり方に対する検討
(2002/04/11 更新日: 2019/06/17)



(1) 開かれた知の共有体系としてのデータベースの概念


 データベースは、歴史的に営々と築かれてきた(さらに将来に渡って築かれていく)多くの人々の知識が集積された体系である。データベースの完成度を高め、多くの人々がその恩恵を受けられるようにデータベースを整備しアクセス可能性を高めていくこと、また多くの人々の英知をデータベース構築に反映させていくことは、開かれた知の共有体系としてのデータベースの価値を派生させることになる。

(2) 歴史の片隅に眠る知の体系としての文化情報資源


 従来、文化情報主に文化研究家、県・市町村の教育委員会及び文化行政担当セクション、博物館・資料館・美術館等の文化施設などのごく限られた人力によって収集が行われ、研究が行われてきた。
 県内各地域の文化財は、博物館等の文化施設にて収集され展示されている。また、地域文化に関する研究は、出版、調査報告書、学術論文、雑誌記事などの形態で発表されている。
 こうした地域文化情報は、文化施設への展示、出版といった形態を取るため情報へのアクセスが困難であるという基本的な制限を抱えている。出版された研究成果は「書籍」という形態を取るために情報が広く流通する契機を欠いている。有限な発行物である書籍は稀少なものであり、出版後時間が経過した資料は図書館などに収蔵されたものを除くとアクセスは極めて困難である。地域文化に関わる調査研究の成果もまた調査資料、調査報告書として一般にはその存在すら知られない形態を取るために長い間には忘れ去られ、資料が存在していることすらわからない状況に置かれているケースもめずらしくない。情報資源のこうしたアクセスの困難さが長い間に渡って「閉じられた知の体系」としての地域文化情報を特徴づけてきたのである。

(3) 対象化されていない数多くの地域文化


 地域文化には有形なものから無形なものまで多種多様な形態のものがある。文化が有形なものであれ無形なものであれ、それらは特定地域、一時代の現象的なものとして現れるところに特徴がある。そのため、多くの地域文化は記録されることなく、また研究されることなく、変容し続け、気がついた時にはその地域の文化がどのように形成され、どのようなものであったのかすら知ることが難しいものとなる。写真、映画、ビデオなどの記録技術が進歩した19世紀から20世紀にかけての現代に近い時代の文化ですら、記録されたものよりは記録されないままに変容し失われたものの数の方がはるかに多い。都市や農村の姿、生活様式などの変化は日常に身を置く者にとっては当たり前のものであるが故にそれらが文化として対象化されにくく、気がついた時には、過去の様態を記録に留めた映像記録などの情報はどこにもなくなっているという状況はめずらしいことではない。このことは、文化が記録されにくく、対象化されにくいものであることを裏付けている。

(4) 知の共有アーカイブとしての地域文化データベース


 地域文化を記録し伝承することの難しさは、同時に地域文化という知識の体系、また地域文化に関する知識・情報の共有が難しいという問題でもある。
 地域文化情報をその地域の人々が知ることのできる情報資源として外在化し共有できるようにするには、さまざまな対策が考えられる。この具体策の一つは、インターネット環境を共通のメディアとして利用し、「開かれた知の体系」としてのデータベース制作に誰もが等しく参加できるようにし、さらにそのデータベースをインターネットに利用しやすい形で公開することにより、社会教育、学校教育、個人の生涯学習などに幅広く活用できることに道を拓くことである。
 差し当たっては、地域文化研究資料など既存の資料を収集し、これを多くの人々が共有できるようデータベース化を図ることが必要である。
・情報資源を共用・再利用が図りやすいようデジタル化する。
・情報資源を博物館・図書館といった特定の場所から開放する。
 データベースに対しては、ややもすると専門家などから提供してもらうものであるというとらわれ意識があるものと思われる。こうした意識に応えるだけではデータベースの成長は望めない。
 地域文化を担っている者は、地域文化研究家ばかりでなく、さまざまな形で地域の産業に貢献をしている農業・漁業・林業・工業等の従事者、市町村や文化施設、地域での各種のボランティア活動、文化的活動を行っている団体や個人などさまざまである。またその地域に生まれ育ち、生活している者全てがその地域文化と何らかの形で関わり、地域文化に興味を持ち、それぞれの地域との接点を持っている。さらには、地域文化を対象として新たに学習しその成果を誰もが伝達できるという点では、誰もが明日の地域文化の担い手となる。
 このようにさまざまな形で地域に分散する地域文化についての「知識」を集めることにより、データベースを万人が参加できる地域文化のアーカイブとして育てることが可能である。このような知のアーカイブとしての地域文化データベースの概念を図1に示す。


図1 知のアーカイブとしての地域文化データベース

(執筆者: 前川道博)
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