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地域学習アーカイブ

「立科町探検隊」のねらい

前川道博(長野大学企業情報学部教授)


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記録日: 2015/10/27 2015年度の授業風景 「立科町探検隊」の様子


「信州学」研究モデル校の科目「蓼科学」


長野県蓼科高校の地域創造/地域貢献コースに学校設定科目「蓼科学」がある。2年生が受講する。立科町の歴史や文化などについて学ぶ授業である。

蓼科高校「蓼科学」

蓼科高校は長野県教育委員会が実施する「『信州学』推進事業」の平成27年度研究モデル校に指定されている。「蓼科学」はその実践的なモデル科目という位置づけになる。

「信州学」推進事業(長野県教育委員会)

2015年度の授業計画に向けて前年度の2014年、同校から「長野大学連携講座」として「蓼科学」の何コマかを引き受けてもらいたい旨の依頼を受けた。私は以前、蓼科高校で「地域」を学ぶ講座を若干回受け持ったことがある。生徒たちが座学としての講義を聴くのは辛い様子であった。学生が地元商品開発に取り組んだ話題などは比較的興味を持って聴いてくれた。そうした過去の経験と学校の実情を踏まえ、「立科町探検隊」は学校からの要請に応え、かつ生徒の実情に合わせた、より望ましいアクティブラーニング型の授業として提案したものである。
 

アクティブラーニング「立科町探検隊」


座学のみの授業は生徒ばかりでなく、誰にとっても辛いものである。どの学校においても、地元をよく知る生徒は極めて少ない。そればかりでなく、そもそもにおいて教員が知らない。皆で知らないからできないのではなく、皆が知らないから教員も生徒もお互いに教えあい、学びあえるアクティブラーニングはそのスーパーソリューションとなりうる。

「蓼科学」は、立科町の歴史や文化に詳しい地元の有識者を講師としていわばオムニバス形式で計画されてきている。生徒の立場からすれば、最初から興味の接点が持てない「地域」を興味が持てないままに受講すると、その講座内容の知識の深さや質の高さがあっても、受容のしようがなく、内容は頭に入らず、効果を低めるのは残念なことである。

地域の歴史や文化は外部からどんなに知識を供給しても咀嚼できるものではない。こうした「知識を施される」タイプの授業ではなく、生徒たちがそれぞれ地域に対する理解を深めるためには、その見方や興味の引き出し方を指導しながら、生徒たちが「面白くてやめられなくなる主体的な学び」をこそ導入したい。2015年度の「地元から地域を学ぶ『立科町探検隊』」(全8回)は、生徒たちが自分たちが設定するテーマ(疑問)により自ら探求をし理解を深めるアクティブラーニング型の授業として実施した。2016年度は全10回に増やし、さらにその学習効果を高める方向で取り組んでいる。
 

立科町探検隊:自らテーマを考え、地域に赴く


生徒たちが地域に興味を持つには、自身と地域社会との間に超えがたいいくつかの大きな壁が存在する。

●地域社会との壁 高校は通常、地域からは隔離されて存立している
●内的な壁 インタレストが芽生えてアクティブになれる
●世代の壁 高校生と地域住民との間に世代の壁がある

「立科町探検隊」は、その名前のとおり「立科町」を「さぐる」ことがミッションのアクティブラーニングである。生徒たちには立科町の何を探りたいかをテーマ設定してもらい、そのテーマにした動機は何か、何を探りたいのかを考えてもらう。その際に「デジカメ」と「ビデオカメラ」の二刀流による探険を勧めている。
 

地域への「接触」と「持ち帰り」


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記録日: 2016/10/18 立科町



生徒たちが地域社会に接触し、探険の成果を持ち帰ることができるようにするため、「立科町探検隊」ではタブレットPCなどを利用する。

「立科町探検隊」は探険先に移動し、学校に戻る時間も含め、限られた持ち時間(2コマ、110分)の中で実施する。わずか1時間程度の中で探険をする。しかしそれでも生徒たちには探険を通して地域に触れ、地域の方とも対話し、探険したことを持ち帰って他者にも報告できて、探検隊のミッションは完遂する。

その場合に、どう探険の質を高めるかが重要なポイントとなる。人から人へ伝えることほど不確かなことはない。いかに伝わらないか、情報が変容するかは「伝言」がゲームになることかもわかるように極めて不確かである。立科町探検隊では、記録する手段としてデジカメとビデオカメラの二刀流を勧めている。デジカメはその様子を写真で記録しふり返りに活かすとともに他者にも伝えられるデータ(手土産)を持ち帰る有効な手段となる。ビデオカメラは探険先でヒアリングしたことを「メモ」という手段だけでなく、持ち帰り、内容を聴き直してしっかり咀嚼する有効な手段となる。
 

地域デジタルコモンズづくりという未来志向の知的営み


生徒たちにとってタブレットPCやビデオカメラなどはいじってみたい道具である。生徒たちが探検隊のミッションを果たしながら、それらは同時に地域の様子や人々へのヒアリングを地域で共有できる、そして未来永劫に伝えることができる「地域アーカイブ」になる。生徒たちは自分たちのミッションをデジタルという手段によって地域から「持ち帰り」、自分たちの地域理解に自ら役立てるとともに、地域社会に対してもその「持ち帰り」(手土産)をお裾分けすることができる。

生徒たちがそれぞれのテーマで地域を訪れ、それぞれに探険しあうことを重ねていくと「立科町」という地域はそれらの蓄積によって第三者が認知・共有できる「わたしたちの立科町」という「地域デジタルコモンズ*」となる。この地域学習のモデルは、立科町に限らず、他地域での実践が可能である。

デジタルコモンズは生徒たちにとっては自分たちの「学習ポートフォリオ」となる。デジタルという手段によって自分たちの学習プロセスが蓄積・可視化され、自らの認知向上、理解促進に活かすことが出来る。そのアウトプットは地域からもアクセスが可能な「知識の貯蔵庫」「地域の記憶の場所」になる。こうしたアプローチにより、地域は永遠に記録・記憶されるものとなり、教育は後に果実を残し積み上げることのできる新たな地平から未来を展望できるものとなることを期待したい。

「立科町探検隊」では、ポートフォリオ作成支援ツールPushCornを用いて、データのデジタル化と共有を運営している。教室には常時アクセスできるネット環境がなく、生徒たちにとっては大きなハンディとなる。大学の有志による支援でそのハンディを補っているが、教室で生徒たちが直接自分たちでデータを蓄え、ふり返りを直接サイトに書き込むことができるように学校の学び環境がラーニングコモンズ**化することを願いたい。

*デジタルコモンズ デジタルな共有地
**ラーニングコモンズ 学びあいの共有地
 
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