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[2005]ディジタル・アーカイブを活用した「電子芸術情報図書館」

基本情報


「ディジタル・アーカイブを活用した『電子芸術情報図書館』その現代に於ける機能、大学に於ける機能、そのユニヴァーサルデザインの考察」
執筆者:端山貢明

<記事目次>
1. 「ヒト」の「人」としての自己実現を支援するメディア「知性媒質」の生成
1.1. 知性媒質
1.2.知性媒質のユニヴァーサル・デザインその要件非決定性
2. これからの大学と「ディジタル・アーカイヴ技術の援用による電子芸術情報図書館」
その期待される社会的機能及び意味
2.1. 大学のユニヴァーサル・デザイン これからの大学における現代の特性の体現
2.2. 知の遺伝子の接触機能遺伝体系としての文化
2.3. 自己実現プロセスとしての自然な学習プロセス権利としての自己実現2.4. 全ジェネレーション(世代、発生)対応の学習機能空間 
3. 全Generation University「電子芸術情報図書館」の一つの到達像
人生の知の基地 知の接触機能 機能遍在
3.1. 全Generation Universityにおける「電子芸術情報図書館」
3.2. 自由な出力表現
3.3. Education 自ら引き出すこと
4. 展望 本研究のこれから 到達像の具体化に向って
4.1. ようやく可能となってきた現代の知性媒質の始まり
4.2. アクセス側の主体性非決定的対応の具体形
4.3. この流れの中で 研究プロジェクトのこれから
4.4. 周知

(『電子芸術情報図書館の構想』、編集・発行:メディアテーク研究会、2005/03/31発行、pp.7-16.)

 

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記録日: 2005/03/31 『電子芸術情報図書館の構想』、編集・発行:メディアテーク研究会、2005/03/31発行、pp.7-16.


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ディジタル・アーカイブを活用した「電子芸術情報図書館」
その現代に於ける機能、大学に於ける機能、そのユニヴァーサルデザインの考察

端山 貢明 

1. 「ヒト」の「人」としての自己実現を支援するメディア「知性媒質」の生成

 本研究の目標とする「ディジタル・アーカイヴ技術の援用による電子芸術情報図書館」の開発は、その背後に、人間の自己実現支援機能空間としての知性媒質の生成という人類的な大目標を控えるものである。ここで「電子芸術情報図書館」の求められる姿を、この、知性媒質の視点、幾つかのキーワードから考察しよう。

1.1. 知性媒質
 知性媒質とは、人間の知的な機能、大脳の機能を支援拡大するために、人の知的活動に向かい合う形で人の外部に生成される支援機能空間、個及び系としての人間を包み込んでその存立を支援する人類の第2の大脳新皮質として考えられる媒質のことである。
 水が波にとって、空気が音にとって、また、空間が存在にとっての媒質であるように、知的な活動を必要とする条件が起こった時、その条件に対応してその知的活動を支援し成り立たしめるもの、人間の知的機能に対応し外化され人間(人類)を取り囲む支援機能の有機的集まり、これが知的媒質である。
 大脳新皮質の顕著な発達が、ホモサピエンスを他の生物とは異なる発達過程を持つ生物としたように、1940年代以降顕著な発達を見せたコンビュータ及びコンピュータネットワークを含むIT (Information Technology, Intelligent Technology, Interactive Technology)は、人類の第2の大脳新皮質、知性媒質を拓くものとして人類の新しい発達過程を支えるものとなろうとしている。
 このようにして生成の始まった現代の知性媒質は、人類の要請に応えその知的活動を支援するに留まらず、そこに更に新しい構造化の契機を提供し、新しい神経結合と新しい知的体系を形創る循環のプラットフォームとなるものである。「ディジタル・アーカイヴ技術の援用による電子芸術情報図書館」がその到達像として目指す所もここにある。
 本研究では、この現代の知性媒質の望まれる到達像をフィードフォワードし、これを到達点とした到達課程とそこで具体化される技術を「電子芸術情報図書館」の背景と重ねて段階的に検証を進める。


1.2.知性媒質のユニヴァーサル・デザインその要件非決定性
 ユニヴァーサル・デザイン(UniversalDesign以下U.D.)とは、様々な異なる条件にある人々それぞれの問題、必要性に対応し、人間としての存立にとって必要な総ての機能領域に於いて、その機能の減少(Deficit)のある部分には補障(Recompense損失を補う事)を、また、新しい機能を必要をする部分にはその拡大(Development発達)を、それぞれ支援し、「人」の権利として、自らの必要において、自らの意思、自らの力により自らの存立と発展を支える事を可能とする支援環境の設計/計画の総合的システムである。
 「人類の第2の大脳新皮質」として、アクセス者の持つ様々な条件、つまり人類63億の与件に対応し、RightReward(必要なものが必要な人に的確に渡されること)を大前提とした交換システムの実現が求められている現代の知性媒質には、この、アクセス者の主体性に於いて作動するUniversalな対応機能を目指した設計U.D.に支えられた非排除的な高いResponsiveness(応答性)が要請されるのである。
 知性媒質の機能の本質は、単なるデータ集積、ネットワーク等ではなく、生物の種としての「ヒト」が、様々な条件と出逢いながら、知性、文化を固有の体系としてその内に持つ「人」として育ち成立することを支援するところにある。これは、旧来のリジッドな、強制的なシステムによる実現の不可能なところであり、そこにアクセス者の権利に於いて自由選択の可能な、固定されない自由な自己組織化、自由な連携等を可能とする非決定的な対応の機能が求められるのである。
 大脳の神経結合が、問題解決の非決定的対応のプロセスの生物的軌跡であり、「人」の自律的自己実現/自己生成のプラットフォームとなるものであるのと同様に、人類の大脳としての知性媒質にも、問題解決に対応する自己組織化の機能が育ち軌跡として内包されることが不可欠なのである。
 1940年代以降の現代社会は、この特性の体現を求めて多くの理論/技術の開発に努め、それらの体系は半世紀を閲してようやく実現可能な、実用可能な状態に達し始めている。

2. これからの大学と「ディジタル・アーカイヴ技術の援用による電子芸術情報図書館」
その期待される社会的機能及び意味

 本研究は知性媒質の試行的実行形としての「ディジタル・アーカイヴ技術の援用による電子芸術情報図書館」について、現代の要請に応え、「人」の生涯に渉る多領域の研究/学習を支える「全ジェネレーション学習機能」への展望を持ちながら、現代が要請する新しいメディアを新しい技術と併せて拓き、人類に遣そうとする検討/討議を行なって来た。
ここで、前章で考察した視点から、図書館、大学、Internet、等を総て知性媒質の、時代、機能、対応領域等におけるそれぞれの具体化の軌跡として捉えられるものとして、この視点から現代のこれからの大学と電子芸術情報図書館の期待されるあり方を考える事としよう。

2.1. 大学のユニヴァーサル・デザイン これからの大学における現代の特性の体現

 これからの大学のU.D.とは、知性媒質に対する36億のアクセス者の必要性に応える事で、ここで、これからの大学に於けるU.D.と、その非決定的な対応のシステムについて考察する。
 現代の特性としてのアクセス者の主体性の尊重は、現代の大学のU.D.にとって、自己実現の高度な段階として大学にアクセスする人々の様々な異なる要請に的確に応える一つの重要な座標軸となるものである。
 大学は、そこに至る小中高の教育課程とは異なり、自らにとって必要な分野とその進度/段階を自ら選び、年齢も出身もより自由であるその条件から、アクセス者の主体性に基づく創造的な学習への移行も、より可能な状態にあると考えられる。
 ここで、先ず、現代のこれからにとっての大学とはどのような要件を充たすべきものであるかを考察するために、「大学」を表す英単語Universityの意味から比喩的に考えて見よう。Universityは、その語源Universitas(ラテン語)の、普遍性、宇宙、全世界、大学等の意味から、我々の存在全ての媒質としての宇宙と同様に、そこには「ヒト」が「人」として成立する自己実現にとって必要なあらゆるものが、Uuiversalにアクセス可能な自由な状態で渦巻きながら大きな総体となって存在し、また、そこでは、あらゆるものが自由に出逢い、常に新しい知が産み出され、進化し、更に新しいUniversity(大学、宇宙)が常に育っていくという、この語源の意味の投影が見られ、その壮大さに気付くのである。
 このような創造的なUniversityにおいては知性媒質は、旧来の(近代以来の)集権化社会のリジッドな管理型体系等とは異なり、アクセス側の人々の主体性、主体的な行動によって成立し、高いアクセス可能性(アクセスビリティAccessibility)自由選択性を持ち、自発的、自立的、自律的な自己実現を支援するアクセス型のメディアとしての機能を以って現前するものである。
これが、63億の人類の総体に、また、63億の人類の一人一人に個別に、同時に整合的に対応することを求める「現代」の要請に応える現代の知性媒質の姿である。

2.2. 知の遺伝子の接触機能遺伝体系としての文化
 ここまで考察して来た知性媒質の特性は、人間の「個」に於ける個別性(個体の差異)、また、人間の総体に於ける同一性(人類としての)、という排反する特性(個別性:同一性)の同時整合的成立というHuman Genomeの記述する特性とのアナロジーを持つものである。この、近代に於いては実現出来なかった排反要件の上に立つこれからの大学が社会維持機能として人類から付託されるものは、人間の生物の遺伝子「ヒューマン・ゲノム」と、人類の文化の遺伝子「知のゲノム」が、効果高く遭遇接触する事により、「ヒト」の中に「人」が成立し、その総体の上に人類の文化が出来上がって行く、その接触機能にある。
 現代社会における大学は、将にこのような接触機能を果たすものであり、これにより文化の遺伝体系の一翼を担うものである。
 既に本学に於いて実施中のWeb通信学習は、このような方向性/到達像を目指し、ITの援用による高い相互呼応性(Interactivity)に支えられ、年齢/地域等の制限もなく、開かれた接触機能に立ったアクセス者の主体的な選択と学習により、一斉授業等に比較して顕著に高い学習効果が見られ、知性媒質に支えられる「人」の自己実現の試行の成果を目に見える形で予見させるものとなっている。
 このWeb通信学習は、各国語エディションを整え地球上の任意の点からのアクセスを可能とする体系を目指そうとするものであるが、本学が人類的ネット上の異なる特性を持った無数のnodesの一つとして他の多くのnodesとの自由な連携により、必要性毎に成立する柔軟な構造を、環境の条件の理解に対応して自律的に進む大脳の神経結合とのアナロジーに於いて生成して行く事を、本研究の一現としても目指すものである。

2.3. 自己実現プロセスとしての自然な学習プロセス権利としての自己実現
 自然な学習プロセスとは、その学習者自身がワカッた時に次のプロセスに進むという、本人の理解ステップに対応した進捗(個別理解ステップ進捗)をするもので、このプロセスの中で問題の解析、構造の発見、構造的対応を体験し自ら解るシステムを理解し身に付けた人(子供も大人も)は、その後、級数的な進捗を見せるようになり、その学習は生涯「解る喜び」の連鎖の上に続くのである。
 一つの大きな問題は、旧来の教育体系に於ける年齢ステップ進捗方式がこの自然な発達を妨げ、能力差による選別/排除から学習成果の不均衡、権利の不均衡をもたらして来たこと、また、未だにそれを続けている事であり、ここで、先見性の低い思い付きによる安直な方針の差し替え(ゆとり重視、学力重視)などではなく、本研究は、本質的な学習の生産性の認識と、これに耐える、より合目的的な生産性の高い学習方式、学習支援システムの本格的な開発を提起するものである。
 同じことを半分の時間で学習できるシステムがあれば、人は人生に2倍の時間と2倍のGAINを持つことが可能となる。あの嫌な「ベンキョー」が、短い時間で、楽々と、面白くてたまらなく出来てしまったら、こんなにいいことはないではないか。(学習の生産性=成果と負担の比)
 ここで、一人一人の異なる条件を尊重しながら的確に対応し、ステップごとの理解の成立に基づく望ましい自己実現を支援する柔軟なU.D.、更に、取りこぼし(落ちこぼれではない)による権利の不均衡の起らないためのPreventive U.D.(予防的ユニヴァーサル・デザイン)が如何に重要であるか、容易に理解されるだろう。
 このためにまず、旧来の年齢ステップ進捗方式から自然に(納得に基づき)離脱し、一人一人の特性、価値を尊重する自由な個別理解ステップ進捗への整合的な移行が不可欠なのであり、これを、現状でも若干自由の大きい大学からその効果の見える形で始め、社会的認知を経ながら更に高中小と遡り進むのが望まれる形で、ここでも大学の社会的機能、その可視化機能に大きな期待があるのである。

2.4. 全ジェネレーション(世代、発生)対応の学習機能空間 
非排除の原理
 ここでは、能力差による学習成果の不均衡、権利の不均衡からの解放のための本質的なU.D.、一人一人の異なる条件に対応しその学習を支援するシステムとして生涯学習機能についての考察に進もう。
 「生涯学習」とは日本では中高年の趣味としての続きの勉強程度の意味で捉えられ勝ちだが、本質的には学習者の主体性に基づいて、任意の年代に、任意の対象領域とその進度/段階を選び、任意の速度で自らの発見学習を進め、更に任意の学習生を涯に渉って展開する事を指すもので、これは、前述のWeb通信学習に於けると同様に、学習者の条件による差/別排除なく、学習に於ける個の主体性の尊重を実現する体系であり、大脳の機能に於いても最も学習効果の高いシステムとして評価されるものである。
 ここで、様々な年代の異なる個人史の背景を持つ人々が、生涯の任意の時期に任意の領域で学習を始めるという事は、それぞれの異なる知的身体的文化的諸条件に非排除的に対応しながら、望まれる学習を支援するという必要性から、その現場に全ジェネレーション(世代、発生)対応の学習機能の発生を促すことになる。
 ここで「ジェネレーション」という単語は、世代(年齢的な層、塊)と言う意味と同時に、その語源に「発生」の意味があり、ここから人々の人種、性別、出自、地域、文化等人々のそれぞれの持つ深いRoot(根源)がその人の中に形創った尊重されるべき属性、個性、人格、文化等のジェネレーション(発生)、その固有性の発生を意味するものであることが深い同感を以って理解されるのである。
 このそれぞれに対する諒重と配慮を持った全ジェネレーション(世代、発生)対応の学習機能空間は、様々な異なる条件を持った人々にとって、そこに、多くの差別要因/排除的要因によって自己実現不全に陥るその原因の本質的な部分の善改が始まると言うことが出来るだろう。
 大学の持つ社会的機能としての接触機能の効果は、ここでも大きく期待されるのである。このようにUniversityは既に日本の学校システムで考える「大学」の範畷を超えて、その語源の、普遍性、宇宙、全世界、大学等の意味から、全ジネレェーション(世代、発生)の人々からの主体的な学習アクセスに応え、その自己実現を支援する機能空間として再認識されなければならない所に至っている。
 大学を始め旧来の「教育」のシステムの本質的な改革が必要とされる由縁である。

3. 全Generation University「電子芸術情報図書館」の一つの到達像
人生の知の基地 知の接触機能 機能遍在

 前項で考察したアクセス側の主体性において作動するメディアの上に成立する、「人」の自己実現を支援する全ジェネレーション(世代、発生)対応の学習機能空間の一つの解答として、年齢、地域、性別、職業、出自、人種、文化、障害等の様々な異なる条件にある人々が、それぞれの主体性に於いて関心領域を目指して熱意を持ってアクセス/学習/研究に集う包摂的(Inclusive)な自己実現支援空間として知性媒質上に展開する「全Generation University」を考えよう。
 この「全GenerationUniversity」は、人が全生涯に渉って社会活動と往復しながら学習/研究を行なう人生の知の基地として機能するもので、そこで人々はそれぞれ社会的活動に於いて常に新しく必要の生じる知見/技術を積み込んではまた社会に船出して問題解決に活動するのである。
 このような形で作動する「全Generation University」は、世界から集まり出逢う異なる世代の異なる文化が相互に自由に接触することにより、文化の総体の深い構造化を進める接触機能をも果たすもので、様々な異なる条件の人々に非排除的に対応する包摂的社会(Inclusive Society)の現前を促すものとなるのである。

3.1. 全Generation Universityにおける「電子芸術情報図書館」
自由な構造化機能
 「電子芸術情報図書館」は単なるDBではなく、人々の主体的なアクセス、自由な構造化による新しい情報の生成、知の発生を支援する知性媒質としての機能を目指すものである。この機能により、知性媒質上の空間に自由にストアされ浮遊している要素(Unit情報単位)は、アクセス者の意識に応え、分子構造のような多様な構造化による階層的Contextを獲得しながら、Universalなフィールドにおいて日常的に理解/活用の可能なレヴェルの情報単元(Component)となるのである。
 本研究は、現段階まで、この基礎的な機能の研究と開発を進めて来た。
直感的なシステム
 現代の知性媒質の一つの初発的な実現形態であイるンターネット(1969〜)は、その初期、重要な情報の保護のために求められたRedundancy(重複性)及び分散管理と共に、ネットワーク化による知的資源の共有(自由アクセス)、空間(サイト)を超えた情報単元の自由な再構造化の機能を解放し、情報に於けるアクセス側(I/0)の主体性の成立の始まりを拓くものとなった。
 脳システムに於いては海馬が情報の構造化に関わる機能を管掌し、事象の解析に於いて、その構造を自ら発見し事象の理解に基づく対応を可能にするという、人間の存立を支える重要な機能となっている。
 この、対象とする事象の構造解析と要素の構造化の過程に於いて、「人」の内部に、事象に対応する問題解決の体系が成長的に生成され、次に同じ構造の問題に出会った時、その迅速な作動により瞬時に明晰な把握/理解に基づく問題対応が可能となる。
 一般に「直感」と言われるものは実はこの機能のことで、この、大脳システムにおける神経結合、自己組織化が、多様な情報単位/単元の自由な新しい構造化とその出力としての創造的表現を支援しエンハンスするのである。知性媒質としての「電子芸術情報図書館」はこの大脳システムとのアナロジーに於いて、直感的なシステムとして常に新しい構造化の可能性をProvideしようとするものである。

3.2. 自由な出力表現
 全Generation Universityの上の「電子芸術情報図書館」は、知性媒質上の知性資源の必要性に対応した自由な構造化により、説得、雑談、論文、年表、映画、辞書、紙芝居、小説、Webコンテンツ等、その時の必要性/目的に対応した自由な人間的表現、任意の出力形態を可能とするものである。ここで求められるものは、触発、喚起(evocation)、ヒントにより自ら目を見開いて、自らの目的に対応した構造化、新しい表現を構成することを支援し促す創造的効果である。
 また、ここに、その予定される機能として、広汎なDB機能、創音機能環境、交流交換機能を拓くことにより、人々はこの機能空間と関わって、任意にその人固有の音楽、音の時空環境の創作、共有、享受(コンサート等も)が可能となり、社会の静かな熱としてその励起に貢献するものとなるだろう。
 このように見てくると、「ディジタル・アーカイヴ技術の援用による電子芸術情報図書館」の知性媒質としての要件が明らかになってくる。

3.3. Education 自ら引き出すこと
 ここで、「ヒト」の「人」としての成立のための自己開発、学習のアクセス側の主体性に立った原理的メカニスムからその支援システムの実現を目指す原理的視点としてEducationを考察することにしよう。
 日本語では「教育」と訳されるヨーロッバ語のEducationの語源(Educatioラテン語)は、その語幹Educoに「引き出す」という意味があり、ここに、あの時代のローマ人たちが、Educatioをその人から「人」としての望ましい実現を引き出すことであると考えていた事が理解される。ここからも、Educationの本質が「教え込み」による同質化ではないことが明らかとなり、同じ対象からそれぞれ異なる視点で自ら必要なものをEducoすることにより、それぞれに最も適合したものを獲得、また、この間のアクセス転写における個別のDistortionは文化の遺伝体系の中にMutation(突然変異)を起し、アクセス側の特性による新しい多様な文化の生成を齋すのである。
 ここで、本研究の「電子芸術情報図害館」に於いても、個の主体性に基づく研究/学習を支援するシステムの原理としてこのEducoに注目し、生物の「ヒト」としての遺伝子「ヒューマン・ゲノム」と文化の遺伝子「知のゲノム」との望ましい接触により、人々が自らの「人」としての資質を望ましい形で引き出すことを効果的に支援する人類的システムとして提起するものである。
 自己実現のためのEducoに最も必要且つ効果の高いものは教え込みではなく、様々な異なる条件にある人々が、自らに必要なものに自ら気付き発見する事を触発するためのヒントであり、「電子芸術情報図書館」は将に世界に繋がるこのヒントに満ちた環境を以って「人」を包もうとするものである。

4. 展望 本研究のこれから 到達像の具体化に向って

4.1. ようやく可能となってきた現代の知性媒質の始まり
その背景 高度技術の非専門化傾向の流れ
 1950年代中葉以来の高度技術の非専門化傾向の新たな一つの可視的ステップとして、1980年代から21世紀に向うディジタル技術の発達と普及による高度技術の非専門化の加速度的な流れの中で、長く遠望して来た人類の第2の大脳新皮質としての知性媒質の現代に於ける実現の姿がようやく現実として見えて来た。
 この知性媒質が、様々な異なった条件を持った人々の要請にUniversalに応える中で、非専門家の利用技術の水準の高度化が著しく進み、非専門化、一面では素人化の進む部分の発達を高度な水準に達した素人に委ね、そこに、無限に多様な文化の発生とuserとしての高度技術の発達への影響行使を社会的機能として同時に期待するという歴史的流れが既に始まっている。この流れは、素人の参入と言うより、社会的活動効果を前提とした主権者としての人々の主権の行使であり、更に高度に専門的な先進的な領域は、高度な先進的な専門家/専門技術者の協働が現代を拓き先導し、現代の要請に耐える高度システムをprovideしていくと言う深い機能的構造化が現代に於いて効果の高い形で進むのである。
 現代の知性媒質はこのような与件に的確に対応し、個の主体的存立を社会の成立の原理とする現代の特性に立って、無限の個別化の上に個の主体性の尊重への充分な配慮に基づき、媒質に対するシロウトの広汎なI/0アクセス権が実現する時、ここに、目の眩むような分野の多様性、目の眩むような、質、水準の高低差の中での様々な表現の成立が、未だに残る近代の残滓からの離脱と現代の文化の新たな発展のための「熱」となる可能性が期待されるのである。

4.2. アクセス側の主体性非決定的対応の具体形
 高度技術の非専門化の流れは、今、ipod、携帯電話(音声/音楽、映像、DB機能)、MP3等、ますます小型化し高機能化する一般用情報機器/技術等、マクルーハンの言う「人間の能力の外延」としてのメディアの、特に大脳機能に対応する部分が、意外にPopularな所で知性媒質を身近に引き寄せる状態に近づくところまで来ている。かつて、見上げるような立派なコンピュータに長時間待たされながら計算処理をお願いしていた頃から遠望していたクライアントとしてのアクセス者の任意の操作(空間、時間、内容)が、これらの如何にも非専門的な素人くさい環境の中で可能となろうとしているのである。
 1960年代に、人々の自らの行動により、現代の意識の実現形態として人々の前に明瞭とした現代の特性としてのアクセス側の主体性が、テクノロジーのfollowを促しながら社会システムとして実働し、主権者としての人々の権利に、深い時差のある地域にまでも、急速な変質、転換を齋すようになっているのである。
 本研究で繰り返し述べてきた、様々な異なる条件にある人々の必要性に個別に応えるU.D.の体系は近代の技術に於いては全く実現不可能なものであったが、非決定論によって幕をあけ、その中葉には情報理論(Shannon 1948)、サイバネティクス(Wiener 1947)、コンピュータ(Eniac 1946)、等、非決定論的対応の体系の出現を得た20世紀の現代のテクノロジー特にITは、その後の展開の中で、このアクセス者の任意の要請に対応することを日常的な状態で実現するところに至ったのである。

4.3. この流れの中で 研究プロジェクトのこれから
 本研究は、今期、先ず現代に於ける知性媒質の具体化としての「電子芸術情報図書館」の基本的な概念設計と、その情報単元の設計開発までに至った。本研究は、ここから、「電子芸術情報図書館」の現代に於ける社会化の具体的な実現形態として、その網際化とそれを支える体系についての研究と開発を進めるものである。
網際化
 網際とは、国際(International)、学際(Interdiciplinary)のように、異なる特性を持って独立に存立する内部に多元的な網状構造を持ったシステム/領域が、複数、相互の必要性に於いて、個々の主体的存立を保持しながらより上位の包摂的構造を持つ状態。情報科学の中で逸早く始まり、EUのような形での広汎な社会的実現にも現れている包摂的なシステムの概念である。
 知性媒質上に開く文化のアクセスポイントである「ディジタル・アーカイヴ技術の援用による電子芸術情報図書館」は、この網際化の視点に立つ連携により媒質上に無形に広がる電「子芸術情報図書館網際」を生成するものである。
このような社会的機能は独り本学のみに於いて孤高に最新の高度機能を目指すものではなく、特質の異なる多くのnodesとの間に一つ一つ成長するネットワーク化を進め、社会メディアとしての生成を目指すもので、「電子芸術情報図書館」のこれからの開発と研究も、このようにあらゆる領域、世代、地域等に於いて様々な特質を持った機関との成長的な連携に立って、人類63億のそれぞれをnodeとする無形の媒質として作動することを目指しながら進めるものである。これらは、巨大化、集中化、権力化を目指すものではなくそれぞれのnodeとなる機関、研究者が最も精通する固有の領域において行なう高度な研究に基づく分散開発、分散管理により、広く媒質上に広がる知性資源を、繰り返し述べる、必要性毎に自由に高度に構造化する事を可能とする自由なフィールドを人類社会に開こうとするものである。
網際の解放性と安全のための配慮
 この解放された網際には、多く話題とされるように安全のための配慮を欠かすことは出来ない。これは網際の閉鎖化を意味するものではなく、また、勿論、アクセス者を侵入者視するものでもなく、アクセス者、特に素人が悪意なく伴ってくる様々な問題、障害、それも致命的な損害となるものに対する免疫(Immune System)機能、抗体の自動的生成の機能による、悪意のない害への免疫性を持つ非決定的に閉じた界面により包まれた非閉鎖平衡系の生成、そのImmune Systemの原理的メカニスムも、次期の研究の重要な課題である。
 現代のテクノロジーの現状は、これらの実現が困難ではあるが不可能ではない所に到達しており、また、userの意識も急速にアクセス型に移行し、64億を目前とする人類の今とこれからを支えるものとして、本研究の指向する権利としての知性媒質の生成が、更に、新たなテクノロジーの開発の契機となることを願うものである。

4.4. 周知
 本研究の第一期の終了後、次期の広い連携に立った研究開発のフィールドの励起のためにも、「電子芸術情報図誉館」上での公開と同時に、人々と顔を逢わせた空間で、また、TV等のコミュニケーション空間の上でのシンポジウム等の実施、等、知性媒質の様々な形の空間の上で同時に語り合うTALK-INを開き、この成果を人々と広く共有し、共にこれからの研究開発を進めたいと願うものである。
 以上

(『電子芸術情報図書館の構想』、編集・発行:メディアテーク研究会、2005/03/31発行、pp.7-16.)

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