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ミッチーのほぼ日記

ドラマ 四季ユートピアノ(1980)

カテゴリ: 映画作品解説
(登録日: 2014/11/08 更新日: 2024/02/22)


☆ドラマ 四季〜ユートピアノ〜
http://cgi2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009010252_000000

この記事は、「おらほねっと/ミッチーのほぼ日記」から転載したものです。
http://sns.orahonet.jp/blog/blog.php?key=14779
 

解説


NHKの映像作家・佐々木昭一郎の作品を初めて見たのが『四季〜ユートピアノ〜』でした。初回放送の1980年1月に見ました。それ以来、佐々木作品にすっかり魅せられ続けてきました。私に対しても少なからぬ影響を与えた映像作品の一つです。早いものでそれから35年近くが経ったことになります。放送作品としてはすでに古典のようにすら扱われています。同時に私自身がそれだけの年齢にスライドしたことになります。見た当時、多感な大学生であったことがこの作品を一層忘れがたくしました。

作劇と映像表現がユニークです。一言で言うとイメージの連鎖と反復で構成・表現される広義の意味での物語です。基点はA子(栄子)。栄子はAの音の化身と言ってもいい。音叉の音高。調律する時の基準音です。Aの音が響き、昔の記憶や連鎖するイメージを示導します。

全体がどのように構成されているかをざっくりと捉えてみると、明らかな構成があります。私の見立てでは3章構成です。

風の章 光の章 出会いの章

風の章 A子の4歳から高校生まで
 小学生の兄が死に、母が死に、父が死ぬ。
 人を音にたとえ、いなくなることを風にたとえている。
光の章 祖父母の家で暮らし上京するまで
 海岸に注ぐ陽光、裸電球の灯に象徴される光が印象的なシーケンス
出会いの章 上京しピアノ調律師になる
 大きくはピアノ工場、ピアノ調理師の宮さん、アイコの3部構成です。物語は出会いと別れ、出会いと別れ…。

とりわけ素晴らしいのはイメージ(音・映像・言葉)が響きあうようなリフレイン。わけてもアイ子のシーケンスは、イメージの重層化したフーガのような反復・反響が織り成されていて見事。Aの音(音叉の音でストレートに幼児期の記憶がフラッシュバックし記憶が往来しイメージで響きあいます。このアイ子のシーケンスに「主よ人の望みの喜びよ」が導入され、映像と音のさながらフーガのようなシーケンスが展開します。

  音の日記
  夏の終わり、アイコがいなくなった。
  アイコはヒバリにどのような望みを託したのだろうか。
  アイコは空に生きている。

  人の望みの喜び。自分の望みを確かめた。
  答は風の中。
  電球の光から真っ直ぐにやってくる。
  光の速度で、音の速度で。
  まるで昨日の音のように。

まるで昨日の音のように、私の心の中にもそのイメージがまるで息づいているもののようにリフレインされてきます。

この物語で最も重要な位置を占めているといってよいのが主人公のA子を演じる中尾幸世さんという個人の存在です。透明感があり、感受性が自然に表現できている自然体のような存在。いわゆる演技ではなく、存在そのもの。素材と言った方が当たっています。この素材があって、この物語が紡ぎ出されています。

赤いはんてんを羽織ながら、目の前の電球を手で包み込むイメージ、母親を回想して「この歌歌いたい」とマーラーの4番4楽章を口ずさむときの高校生の時のイメージ、「赤いサラファン」を歌うシーンなど、いくつものシーン、イメージが心に刻みつけられていきます。これらの映像が訴求するのには映像の質感にも理由があります。1980年当時、ビデオ撮影が主流の時代、佐々木作品では16ミリフィルムが使われていました。フィルムの映像の質感というのが、A子を印象深くするアニミズム的効果となって作用していることに気づかされます。これらの映像は、テレビ番組というよりはフィルムそのものです。

人、イメージの他、大切なモティーフが音楽です。全編で使われているのがマーラーの交響曲第4番。第4楽章の歌のメロディーに、オリジナルの歌詞を付けて主題歌のように使われています。
そして特に風の章、光の章の劇音楽として使われるのがその第1楽章。風の章、光の章は、第一楽章によってそれぞれが終結し、次につながる展開を誘導しています。

それと共にもう一つのメインテーマと言ってよいのが、ベートーヴェンのピアノソナタ第19番・第2楽章の弾むような曲。冒頭近くで春の爽やかなイメージと共に導入され、時々、ライトモティーフとして繰り返されます。

『四季〜ユートピアノ〜』は以前、再放送された時にはビデオの粗悪な映像が気になりましたが、今回の放送ではデジタルリマスターされ、比較的満足できる美しい映像で見ることができました。

この番組には100分版(国際版)、90分版(国内版)の2版が存在します。90分版は無理に縮め、100分版にはなかった言葉を入れて欠落部分を補ったという印象があります。作品としては100分版の方がはるかによい。今回の放送もこの100分版の放送でした。

まだ、この作品について研究も評論も言語化しないうち、35年も経ち、しかも古典映像扱いされてしまい、今まで結局は何も語らなかったことを悔いるばかりです。

<参考>
☆ベートーヴェン/ピアノソナタ第19番・第2楽章
https://www.youtube.com/watch?v=HBwfuw4oI90
 
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