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小津映画入門

1 画面で見せる小津映画


 小津映画が再び注目を集めた理由の一つに、その映画的価値の再発見ということが挙げられる。小津の映画は、親と子の関係、そして人間の成長と死といった人間の根源的なテーマを扱っている。小津映画のユニークさは、それをストーリーで見せるのではなく、もっぱら<かたち>や<絵柄>を通して見せていく独特なスタイルに見出すことができる。

 小津のスタイルとして一番有名なのが、ロー・ポジションのカメラだ。カメラは、あらかじめ決まった位置に据えられて動かない。その他にも小津映画にはさまざまな特徴が見出せる。たとえば、人物の正面撮影、画面の左右対称の構図、人物の並び合うかたちなど。また繰り返しが多いのも大きな特徴だ。

図1 ロー・ポジションのカメラ
小津映画ではカメラが常に低い位置に据えられる。この例では、左下前景のタイヤが構図上のアクセントとなって、低さと奥行き感を強調する。
図2 人物の正面撮影
小津は人物を正面向きに撮ることが多い。視線は手前を向き、カメラを見つめているようにみえる。他の監督にはない撮り方だ。
 ここでは『東京物語』(1953年)を例に、そうした<かたち>や<絵柄>に着目しながら、小津映画の表現を探ってみよう。『東京物語』は、小津の最も代表的な作品であり、表現の特徴が最もよくあらわれた作品でもある。

『東京物語』ストーリー

 尾道に末娘の京子(香川京子)と暮す老夫婦の平田周吉(笠智衆)ととみ(東山千栄子)が、東京で世帯を持った子供たちを訪問するために上京する。町医者をする長男の幸一(山村聡)と美容院を経営する長女の志げ(杉村春子)が両親をもてなすが、二人とも生活に忙しく、長女は東京見物の案内を、戦死した次男の嫁・紀子(原節子)に頼む。志げと幸一は親切ごかしに両親を熱海温泉に行かせる。老夫婦が疲れて志げの家に戻ると、今晩は寄合があるからと家を追い出される始末。周吉は旧友と再会して子供たちの愚痴を言い合う。とみは紀子のアパートに泊まり、紀子はとみを優しくいたわる。

 老夫婦が尾道に戻るとまもなく、東京の子供たちの家に、母危篤の電報が届く。とみは、子供たちが東京から駆けつけたその夜に息をひきとる。葬式が済むと皆はさっさと帰ってしまう。小学校の教師をする京子は、紀子に兄姉たちの思いやりのなさを批判するが、紀子は人生はそんなものだと言う。周吉は、親身に世話をしてくれた紀子に心から感謝し再婚を勧める。紀子が東京に帰ると、周吉は誰もいない部屋で独りぼっちになる。


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