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小津作品の形式総体の働きと効果

5 結び


 小津が設立した形式システムは、単に物語コードとしてのみ捉えられるものではなく、形式(技術的手段、ないしはかたち)を優先させることによって表現を抽象化し、さまざまな効果ないしは意味作用の生産を可能にする装置と考えることができる。

 筆者が関心を抱くのは、本論では分量の関係で割愛した物語面と形式面の相互規定関係である。一例を挙げるなら、人物の並び合うかたちに顕在化される「二人」という数が、小津作品では物語構成と形式表現をつなぐ因数として特別な役割を担っていることだ。人物設定に対応するこの数に着目して見る時、そこには人間関係の関数的な取り扱いが見出される。つまり、多くの場合、親子、夫婦、兄弟、親友といった関係がいずれも「二人」の関係で入れ替えられているからである。特にそれは親子関係の場合、不自然なまでに親が片親、子供が一人という関係で設定されていることに特徴的にあらわれている。このような物語面と形式面の相互規定は人物設定に限らず、物語が因果関係の連鎖(プロット)より、何らかの関係性(人間関係、並列関係をなす家庭や料亭といった特定の場所の設定、エピソードどうしの対照性など)に基づいていることからも説明できるであろう。

 またこれを史的展開から眺めるなら、初期には物語(ないしはプロ・フィルミックな対象)が形式を決定していくような傾向がみられたのが、後に下るにつれ、次第にそこから組み上げられた形式システムが、今度は物語構成を逆に規定するように働き、形式面が物語面から殆ど影響を受けることがないような絶対性を獲得するに至る発展過程が両者の関係をめぐって見ることができる。

 形式システムは、何よりも作品相互の内在的な側面から意義づけられるものだが、インターテクスト的な産物として捉えることも、それを理解する作業としては必要だろう。というのも、小津が独自なシステムを組み上げていく過程には、外国映画(特にアメリカ映画)からの表現モードの移入とその組み換えの痕跡が豊かに見出されるからである。


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