正月の行事
正月は年中行事が最も多い月です。正月は神祭り、盆は御霊祭りと区別される傾向が強いですが、かつては二度の御霊祭りがあったともいわれます。「ミタマの松」や「オミダマ」は祖霊を迎え鎮魂する行事だったのでしょう。また正月には予祝行事が多く、小正月前後に集中します。14日の「だんごさし」「カシェドリ」「だんご汁まき」「なりものたたき」、15日の「お田植」「オサイド」等々です。一日正月は神迎え・祖霊迎えの傾向が強く、小正月(望の正月)は予祝行事が中心になっているように感じられます。「二十日正月」が正月の終わりになります。「二十日灸」で体調を整えいよいよ農作業に精を出すことになります。
《一月》 元日:若水
早朝、一家の主人が若水汲みをする。月山沢には、「昔、月山沢では主婦が毎日沼から水を汲んでくるのが日課であったが、正月三が日は沼の神が女を嫌うというので、一家の主人が汲んでくるようになった」との言い伝えがある。
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元日:ヌサ(幣)掛け
元日の朝、各家で男の数だけヌサ(しめ縄に準じたもの)をつくる。ヌサには松・ユズリ葉・餅・昆布・干柿・炭・紙の梵天と七種類のものをはさみ、自分の家からアキの方角の樹木に掛けてくる。ヌサを掛ける場所には米と塩をもって行き供える。ヌサ掛けが終わると若木を切って持ち帰り、1月13日まで戸口の雪の中に立てておく。この若木は、1月13日の団子を煮るときの薪にする。
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元日:アカツキ詣り
初詣から帰ると朝風呂に入り、納豆汁でご飯を食べるのがきまりであった。月山沢では、黒豆の煮物・干ぴょうのしらあえ・茄子の粕漬を必ず食べた。
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元日:門松様へ供物
門松にワラツトを付けて元日から7日まで食べ物を少しづつ供える。
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元日:新道具おろし
元旦:年男の火たき
早朝に年男が石火を切り豆がらで火を焚き風呂をわかす。また若水を汲んで、その水でご飯や野菜を煮る。この行事を三日まで続ける。
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二日:正月礼
主人が近所へは空手で、親戚には手拭い一本位持ってあいさつに廻る。
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二日:初夢
夜に入って宝船様の神を折り、これを枕の下に置いて寝る。いい夢の例としては、「死人の夢を見ると長生きする」「火事で火が盛んに燃えている」「一富士二鷹三茄子」など。悪い夢の例としては、「あけびの夢を見ると知り合いの女の人が死ぬ」「歯の抜けた夢を見ると怪我をする」「風呂に入った夢は人が死ぬ」「魚の夢を見ると山仕事に行って怪我をする」などといわれた。
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三日:オミダマおろし
朝正月礼が来ないうちにワラつとにオミダマ飯を包み、ながしに吊るしておき、苗代作りの日に炒って食べる。
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七日:七草粥
門松様に供えた食べ物に納豆・松葉を入れて粥を炊き、家族が朝食を食べる。「七草に婚家に帰ってカユを食わぬ嫁婿はバカ者」との諺がある。
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七日:ミタマ松のきんちゃく餅
ミタマの松に飾ったきんちゃく型の餅を主人が食べる。「嫁が食うとワニ口の子を生む」との言い伝えがある。
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十一日:かせぎそめ
朝早く、各家の主人や若衆が堆肥をワラでくるんだもの一つ背負って、アキの方(恵方)の雪の田におろしてくる。これをコエショイという。
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十一日:荷縄ない
カギ(炉)縄ない、つるべ縄ない、背負い用の荷縄ない等ある。力餅を食べ一日中、男達がろばたで荷縄をなう。荷縄は六尺ぐらい真っ直ぐに立つよう固くなうと上手といわれた。一升桝に重ねておいた餅の下に米が沢山ついていればいる程、この年は豊作であるといわれていた。
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一三日:餅つき
アト(十五日)の正月の餅をつく。一般に大正月の時より多くつく。結婚前の女子はきんちゃく餅は食べてはならないとされている。女は嫁にいくのでシンショをもっていかれるから、というのがその理由である。 朝、若木柴をアキの方(恵方)から刈ってきて往来に立てる。「若木を畑の蔓物の手柴に使うと虫が付かぬ」との言い伝えがある。
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十四日:だんごさし
みず木(だんご木ともいう)に団子や十六団子(形の大きい十六の団子)をさし、古銭やふなせんべいを下げ根元に昆布をまき、銭入れのきんちゃくに似た大きな餅を結び付け大黒柱に飾る。十本ぐらいのミゴに小餅をつけたマエダマをみず木の根元につける。またみず木の小枝にさした団子を流しの水神、便所、種籾俵、戸口、道具等にも挿し供える。
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十四日:カシェドリ(鳥追い)
夜、子供達が顔を隠して「クックッ……」「カッカッ……」と唱えて他家の戸口を訪れたとき、だんごさしのだんごを多く作り五升桝に入れておいたのをカシェドリに与える。主に厄年の者が「年祝い」(厄落し)に歩くものだといい、他の人が声をだすと水をかけられる。「隣り近所三軒からカシェドリだんごをもらって食うと厄が落ちる」といわれている。
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十四日:だんごおろし
十四日:だんご汁まき
夕方、団子の煮汁を家の周りにまきながら、「長虫くんな 夜ものぁくんな」と唱え三回りする。「蛇やむかでが入らないように」「火伏せになる」などという。
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十四日:なりもの叩き
庭のなりもの(果樹)の幹を鉈で切りつけて、だんご汁をかけ一人が「なるか、なんねが?」と唱えると他の一人が「なり申すなり申す」と答える。その後だんご汁をなり木にかける。
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十四日:道具の年越し
十四日:暁粥
月山沢では早朝につくり、前日煮ておいた小豆と餅を入れた粥を家族で食べる。
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十五日:お田植
主人が庭の雪上でアキの方(恵方)をむき、田打ち、代掻きの所作をし、ワラ三十六株を植え、アキの方に門松を移し立て豆がらを加え立てて拝む。神棚に餅とヒコ(干小魚)をあげておき、田植え後におろして「大田植え」といって食べる。
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十五日:オサイド
十四日夜庭にワラを束ねて氏神、水神、お年神のオサイドを三基作り立てておき、十五夜の月の出に門松、ミタマ松、ノサ、しめ縄、古いお札を添えて焚く。「火の勢いが強い程その年は豊年である」「松の燃え枝で煙草を吸うと風邪をひかず虫歯にならない」「月の光で自分の影がはっきり見えればこの年は無病息災である」「オサイドの燃え残りが多い年は稲穂がみのる」といわれている。
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十五日:ダイサイニチ
十六日:山の神の村まわり(大井沢)
六・七歳(学齢前)の子供達男女が集まり、山神社の神体、男女木像二体を厨子に移して背負い、村中の各戸を「山の神様、お礼(正月礼)に来た」といって戸別に訪れ小銭と餅などをもらい、後なおらいをする。
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一八日:虻蚊よけの餅
小正月の供え餅をおろして夏まで干しておき、虻蚊よけに、包んで身体に付ける。
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一八日:だんご木下ろし
一八日:二十日正月
二十日:二十灸
五月節句の干よもぎをもぐさに、皿の裏にのせて火を付けて家族の身体をなで、後入り口に悪疫が入らないように置いて拝み、炉ぶちに上げておく。
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