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オペラの楽しみ『ローエングリン』

カテゴリ: さまざまな音楽を聴く 地域: どこか
(登録日: 2012/12/24 更新日: 2024/04/02)


昨夜(というか今日の未明)、NHK BSでミラノ・スカラ座の2012/13シーズン開幕公演『ローエングリン』の放送がありました。

★NHK BSプレミアムシアター『ローエングリン』

海外の世界最高峰のオペラ公演がいくつもテレビで放送されるようになり、自宅にいながらにしてその上演に接することができるとてもありがたい時代になったと感じます。

私が『ローエングリン』を初めて聞いたのは1979年の年末、NHK FM恒例のバイロイト音楽祭のライブ録音の放送で、です。多感な大学2年生のとき。その年の『ローエングリン』は新演出(ゲッツ・フリードリヒ演出)1年目に当たり、その後、数年間にわたりその演出が続きました。その時にローエングリンを演じたのが、ペーター・ホフマンです。この上演は、その後、NHKで放送され、映像でも見ることができました。白鳥の騎士ローエングリンに扮するペーター・ホフマンは少女漫画の王子様のように超然としていてカッコよく、ローエングリンと言えば、ペーター・ホフマンというぐらいにその「極めつけ」のイメージが擦り込まれてしまいました。その後、どの『ローエングリン』を見てもローエングリン役には満足ができなくなってしまいました。私だけでなく、あれから何十年経っても、全世界のオペラファンがペーター・ホフマン並の美貌のローエングリン役を渇望し続けて来ました。はまり役というものは代替を許さないぐらいに後世にシンドロームを残してしまうものです。

早いものであれから30年以上が経ち、バイロイト音楽祭の2011年シーズンから『ローエングリン』に登場したクラウス・フロリアン・フォークトがペーター・ホフマン以来のローエングリン役と評されて話題になりました。この公演はNHKでライブ中継され、その上演を見ることができました。男前かどうかはわかりませんが、ペーター・ホフマンには遙かに及ばないという印象でした。またしてもローエングリン欠乏症から抜け出すことができませんでした。

そして、今回のスカラ座版『ローエングリン』。久々にまともに見ることができる上演にめぐりあうことができたという思いがしました。ローエングリン役がヨナス・カウフマン。ローエングリン役には悪くない。フォークトよりは合っています。また、少女漫画の王子様のようだったペーター・ホフマンに比べると、世俗的なイタリアオペラに出てきそうな好青年のイメージです。やっとまともに『ローエングリン』を見ることができました。

ローエングリン役と共に重要なものが演出のよしあし。実はこれも大きい。1979年、バイロイト初演のフリードリヒ演出はそれから30年が経過し、『ローエングリン』の歴史的名演という評価が確立してきたように思います。世界中の人々がローエングリン欠乏症にさいなまれ、まともに見ることのできる上演を長年にわたって待ち望んできました。

フリードリヒ演出はカッコいい白鳥の騎士が幻想的な演出で登場し、おどおどするエルザの前に現れて、まるで少女漫画のように展開する演出で秀逸でした。

昨年見たバイロイト音楽祭2011のハンス・ノイエンフェルス演出は奇をてらった趣向が目に付き、非常にクセのある個性的な演出でした。ネズミの大群が舞台に現れて結婚した主人公を祝福したり、魔女に拉致されていた王子が胎児のような姿で現れてきたり。ローエングリンのフォークトも期待ほどの美男子ではなく、ペーター・ホフマンの穴埋めにはなれませんでした。エルザ役のアンネッテ・ダッシュには全く陰翳がなく、悲劇的なインパクトを打ち消していました。

今朝のミラノ・スカラ座のクラウス・グート演出版はそういった違和感なく、これまでのシンドロームを初めて払拭してくれるような名演でした。まずは問題になるローエングリン役の適切さ。ヨナス・カウフマンはなかなかによい。イタリアオペラの主役に合いそうなキャラクターです。やや問題はエルザ役が昨年のバイロイトと同じアンネッテ・ダッシュ。そっくりの歌手が出ていると思っていたら同一人物でした。彼女のエルザは陰翳もおどおどしさもなく、エルザのイメージにはにはあまり合いません。とは言え、30年来のローエングリン欠乏症というシンドロームからやっと抜け出すことができたかもしれません。

今朝の放送で印象的だったことがあります。それはカーテンコールでイタリア国歌の大合唱があったこと。スカラ座の伝統になっているのでしょうか。イタリア国歌は、歌劇王ヴェルディが作曲した曲です。『イタリアの兄弟たち』というタイトルが付いています。サッカーのイタリア代表アズーリの出場試合でもおなじみの曲です。イタリアオペラの殿堂ミラノ・スカラ座でドイツオペラが上演されるという組み合わせも妙味がありました。イタリア、ドイツが重なると、枢軸関係をついつい想起してしまいます。イタリアとドイツという2つのオペラ大国。両オペラ大国はサッカー大国でもあるという点まで似ています。おそらく枢軸とされる因縁がどこかにあるはずです。サッカーのサポーターの熱狂ぶりを見ると、非常に近いものを感じます。こういう危なさを感じるのも一つの醍醐味かもしれません。

もう一つ、ついでに言っておきたいことがあります。それは結婚式などでよく使われるウェディングマーチの選択の問題です。ワーグナーのウェディングマーチは、このオペラ『ローエングリン』の第3幕で、結婚したローエングリンとエルザが愛の二重唱を歌う場面の導入に使われています。本当の名前を問うことを妻に禁じた夫ローエングリンに懐疑を抱いた妻エルザが名前は何かと強く問うて、二人の愛が砕かれる結末となります。ワーグナーのウェディングマーチは愛の悲劇の導入をなすものです。末永く幸せであるためにも、結婚式ではお使いになりませんよう。
 
おらほねっと/ミッチーのブログから転載
オペラの楽しみ『ローエングリン』
2012年12月24日(月)
https://sns.orahonet.jp/blog/blog.php?key=12500

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