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『浜辺の歌』成田為三、悲運な作曲家

カテゴリ: 雑記 地域: どこか
(登録日: 2017/09/17 更新日: 2024/04/02)


★成田為三(1893-1945)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%90%E7%94%B0%E7%82%BA%E4%B8%89

NHKのクラシック番組『ららら♪クラシック』が意外に面白い。毎回、何らかの作品や作曲家にフォーカスを当てた趣向で、その特色や背景をわかりやすく紹介しています。『埴生の宿』の紹介も面白かった。最近は成田為三の『浜辺の歌』が採り上げられていました。

★ららら♪クラシック/『浜辺の歌』の成田為三
https://www.nhk.or.jp/lalala/archive170901.html

日本人の愛唱歌は数多くありますが、『浜辺の歌』はその最も代表的な歌の一つです。日本人の愛唱歌の多くは明治以降、唱歌として始まった西洋風の歌に起源があります。その特徴は五線譜に書かれること。西洋の音階やオルガンなどの楽器を導入しながら、メロディーや歌詞の内容は日本人の繊細な情緒性を体現していて、非常に不思議なものを感じます。異文化の交差点、ヘレニズム文化にも例えてもいい。そしてまぎれもなく日本の音楽です。西洋のコードを使いながら文化的な独自性があり、決して西洋音楽の表層的な模倣ではありません。

20世紀に入るとレコードが普及し、歌謡曲が誕生します。そして現代のJ-POPへ。そればかりでなく、武満徹を初めとして世界に誇る優れたクラシック系の作曲家が輩出しました。この日本の音楽文化の豊饒さは他国と比べても並外れています。

日本人に広く愛唱されている『浜辺の歌』が成田為三の処女作であるということに驚きます。Wikipediaによると1916年頃に作曲されたらしい。中山晋平の『ゴンドラの唄』は1915年の作曲です。ほぼ同時期です。『浜辺の歌』は抒情的な口ずさみたくなるような美しいメロディーです。唱歌という規範から、もっと日本人の情感に訴える自由な発想の創作、日本人の心の琴線に触れるような音楽へと転換する時代だったかもしれません。

そうやってみれば、『浜辺の歌』は成田為三が新しい時代の音楽を切り拓いた作品の一つと捉えることができます。代表作『かなりあ』と共に日本の音楽史に刻まれる名曲といって過言ではありません。おそらく成田為三はこのようなクリエイティブな曲を書いていれば、日本人の愛唱歌はもっと増え、日本の音楽遺産ももっと豊かになっていたのではないかと思います。

成田為三にとっての不運はヨーロッパへ作曲を学びに行ったこと。ドイツに留学した1922(大正11)年は、それまでのロマン主義的な音楽が終焉し、シェーンベルクなどの無調音楽など、新しい音楽が台頭して音楽が劇的に一変した時代でした。そのような時代、時代遅れの世代に属する先生に師事したことが悲運であったと思います。その先生が悪かったとは言えません。たまたま音楽を学びに行った先がその先生だったというのに過ぎません。

クリエイティブな歌の創作ではなく、日本からみればヨーロッパの借り物文化でしかない音楽、それも旧式の音楽を鑑としてしまったことに運がつきています。番組では最晩年に作曲した『「浜辺の歌」変奏曲』が演奏で紹介されていました。正直、感動も何もなく平凡な曲です。いかにも変奏曲をやっています、としか聞けません。その後の長い作曲家としての人生を、誰からも評価されない作品の創作に使ったのかと思うと、何とも言い難いものを感じます。本来持っている才能を活かすことなく、時代に埋もれた悲運な作曲家です。

日本は戦後、同時代の外国の先端の音楽に影響された黛敏郎などの作曲家が輩出します。武満徹が、ヨーロッパで音楽を学んできたクリエイティブでない人々が権威主義的に作曲をして不毛である、という旨のことを高校生の時の日記に記していました。山田耕作がその筆頭だったのは言うまでもありません。

気が付いてみれば、西洋音楽直輸入の近代を過ぎ、戦後も西洋の模倣をしていたのに、いつの間にか優れた作曲家、世界で活躍する演奏家たちが輩出するようになり、世界にひけをとらない音楽文化国になっています。そうした背景の中、その源泉の一つである成田為三を改めて顕彰をしたいと思います。
 
おらほねっと/ミッチーのブログから転載
『浜辺の歌』成田為三、悲運な作曲家 2017年09月17日(日)
https://sns.orahonet.jp/blog/blog.php?key=16458

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