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中山晋平の新民謡/東京音頭・天龍下れば

カテゴリ: おすすめレビュー 地域: どこか
(登録日: 2007/07/14 更新日: 2024/03/11)


1987
ビクターエンタテインメント
オムニバス民謡

この「おすすめレビュー」は、mixiの「おすすめレビュー」(CDポピュラー)に投稿したものです。
 

おすすめレビュー


中山晋平を生んだ長野県中野市に中山晋平記念館があります。昨日、中野へ行ったついでに立ち寄り、記念館で買ったのがこのCDです。

中山晋平の代表曲は数々あります。その中で際立ったジャンルを形成しているのが童謡と新民謡です。特に新民謡は中山晋平の真骨頂かもしれません。新民謡は今風に言えば「地域おこし」の一つのムーブメントと言っていいでしょう。1920〜30年代、ご当地ソングを作り、愛郷心を高めようとしたムーブメント。晋平の曲ではありませんが新民謡の代表曲「ちゃっきり節」(町田嘉章作曲)は新民謡の中でも出色の作品。言葉、メロディ、土着性、ともに独自性が高く、今聞いてもかなりよい。一方、中山晋平と言ってまず思い浮かぶのが大ヒットした「東京音頭」「天竜下れば」の2曲。問題はそれ以外の曲の数々がどうかということです。

「須坂小唄」「中野小唄」「望月小唄」「龍峡小唄」「野沢温泉小唄」…、さすがに中野出身だけあって、地元信州への貢献度もさすがです。これらを全部聞く機会はあまりないこと、録音が当時のSP盤からの復刻であることから興味を持って買ってみました。中野から上田へ帰る道中、車の中で聞きました。

率直な感想は、聞きとおすのはかなりツラかった(笑)。似たような曲が並び、それほど曲としての魅力も感じにくい水準の質に留まっている点は否めず、です。中山晋平の職人作曲家としての側面をより強く感じるCDでした。

18曲中、葭町二三吉(藤本二三吉)の唄が8曲。小唄系におけるこの歌手の存在感は大きく、あの独特なダミ声は「日本のダミア」と言っても過言ではないぐらい、昭和恐慌の時代の暗い日本を彩る歌声です。この人の唄はいい。大ヒットした「東京音頭」は小唄勝太郎と三島一声の唄。勝太郎は声質が明るくか弱い印象です。三島一声の脳天気な感じの唄い方がなかなかいい。ダミア風二三吉からリュシエンヌ・ボワイエ風のか弱い勝太郎に人気が移ったのもこれを聞くとよくわかります。興味深いのは「中野小唄」を信州中野芸妓連、「望月小唄」を信州望月芸妓連が唄っていること。こういうのも日本の大衆文化の根源にあったものですね。

このCDで楽しめるのは「東京音頭」の前身「丸の内音頭」が収録されていること。同じ曲なのにダミア風二三吉が歌うと実に渋い。一般的な興味からは「新民謡」云々よりも、「丸の内音頭」がオリジナルの録音で聞ける、ということかもしれません。

昭和初期、電気式録音のレコード時代になり、晋平が日本ビクターの専属となり、腕を振るい始めた頃に小唄調の新民謡のブームが重なった。さらに「東京音頭」で、新民謡が盆踊りブームの火付け役となり、晋平人気をさらに確固たるものにした。そういう歌謡史としても捉えることができます。
 
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