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信州風穴アーカイブ

開かれた知の共有「全国/地域風穴アーカイブ」の提案

カテゴリ: 風穴を知る 地域: 全国
(登録日: 2016/08/26 更新日: 2017/08/05)

長野大学 前川道博

1.全国風穴サミットというナレッジコモンズ


 21世紀に入り、ICT(情報通信技術)の急速な普及・発展と共に知の共有環境がドラスティックに変化しつつある。紙からネット媒体へ、書籍からタブレットやスマホへ。風穴などの画像データ、温度計測データ、歴史的背景を裏付ける古い資料なども蓄積しつつ公開することがいっそう容易になる。紙媒体での情報流通や共有には限界がある。手間もコストもかかる。メディア環境の変革は紙媒体依存から脱却するよい機会である。

 今回で第3回を迎える全国風穴サミットは、全国各地域の研究者や風穴愛好家などがお互いに分け隔てなく集うナレッジコモンズ(知識を共有する場)と見ることができる。これに風穴を愛好・研究する市民の活動などが交わってさらに地域や分野ごとにも分散的なナレッジコモンズが形成されつつある。

 「全国/地域風穴アーカイブ」は、全国風穴サミットを機会に広がりつつある地域・個人の発信の気運に応えられるよう、全国各地の有志が地元のデータを出し合い、ネット上の情報空間をデジタルコモンズ(知識がデジタル化されて共有する場)とする提案である。

 アーカイブと調査研究は重なるが同じではない。データや資料を渉猟し、探求した真実を言語化・普遍化するのが調査研究とすれば、アーカイブは調査研究の成果も含め、調査研究の源泉となるデータや資料そのものをデジタルコモンズに蓄積し誰もが参照できる1次データとして提供するものである。皆でデータを出し合い、データに直接接することができるようにすることにより、これまで地元の限られた人にしかわからなかった各地域の風穴の一つ一つが誰にとっても手に取るようによくわかるようになる。全国に数多く遍在する個別の風穴がこれまで以上に「面白い」ものに感じられるようにすること、学術研究や学際的・分野横断的な取り組みが進展していくことを期待するものである。
 

アーカイブの活用イメージ 風穴をいつでもどこでもアプリで検索


2.全国/地域風穴アーカイブの構想


(1)そこにアーカイブを作ると風穴データの蓄積と活用が進む
第3回全国風穴サミットにおいては、「全国/地域風穴アーカイブ」の構築を試行し、まずは信州上田周辺の風穴を対象に、デジタルコモンズ上の風穴アーカイブが形を成していくよう、地域風穴アーカイブのモデルケースとして取り組み始めたところである。長野大学の前川研究室が中心になり開発した学習支援/アーカイブ構築支援ツール「PushCorn」を援用し、誰もが参加できるアーカイブづくりを支援している。
 きっちりとしたアーカイブの構想は行き詰まり立ちゆかなくなることが目に見えている。私たちの提案は、地元の風穴アーカイブを作ることにより、誰もがアクセスしたくなるデジタルコモンズをそこに出現させることである。やりたい人が地域のアーカイブを作り、風穴データの蓄積と活用が進む、という自律分散的なアプローチを取る。
 

(2)地域風穴アーカイブは地元データのおすそ分けで
 日本の風穴を考える上で、欠かせない知の源泉の一つが、清水長正氏による『全国風穴小屋マップ』(2014年、発行:NPO地域づくり工房)であることは言うまでもない。全国風穴の知の体系は、これら清水長正氏の長年にわたる全国風穴の調査研究の成果を源泉として、各地・各分野で活躍される研究者や風穴愛好家の自発的・自律的な調査研究・発信によって、泉のごとくに風穴の情報が湧き出していると言ってよいであろう。

惜しむらくは、現在、広がりつつある風穴の調査・研究などの情報・成果を共有し発展させる方策が、従来の紙ベースでは取りにくいことである。この機会に私たちが『全国風穴小屋マップ』データのオープンデータ化を支援し、誰もが風穴研究の核となるデータとして活用できるデジタルコモンズの環境づくりを支援したい。
 

3.地域風穴アーカイブのモデルとなる『信州風穴アーカイブ』


 私たちは全国にどのような風穴があるのか、それぞれどのような特性があるものかを意外に知らない。それは単に画像がない、データがない、という卑近な原因によってそうなっているに過ぎない。できれば皆でそれを知りたい。この知的欲求に応えられるにするには各地域の研究者・愛好家などが自らの調査データを自分たちの調査研究に役立てるだけでなく、「それを知りたい」という全国の人たちのために「おすそ分け」するといい。アーカイブのねらいはそこにある。

 『信州風穴アーカイブ』(http://mmdb.net/usr/oraho16/fuu/)は信州上田風穴の会が主体になって持続的に運営していけるよう試作した。同会が信州風穴の全てを担うのではなく、調査した対象の風穴の記録データをメンバーの持ち寄りでお互いにここに蓄積することを会の活動の一つにするといいという提案である。むりせずできることだけできればいい。これがおすそ分けである。また長続きさせるコツでもある。

 風穴の調査・学習が面白い。この面白さの共有が活動の持続可能性を高めるために大切なことであろう。アーカイブ化の目的と効用は、次のように整理できる。
(1) 活動をより面白く! 学習・研究活動の記録・発信を通した「生きがい」づくり支援
(2) 活動の拠り所に 記録・データ・資料・記事の蓄積・活用(会のポートフォリオ)
(3) 対外的な情報の提供(より多くの人々に情報・知識をおすそ分け、異文化交流の接点)

 ナレッジコモンズの分散拠点の一つがこのデジタルコモンズによって補完される。
 

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風穴アーカイブページ事例


4.学際的なナレッジコモンズの知の源泉に


 風穴アーカイブは現代の要請に対応した知の源泉という可能性を開く。

 その一つは全国の風穴を知りたいという知的欲求に応えることのできるアプリやウェブサイトの開発・利用に展開できることである。次世代の若者が自然の探求や地域学習や課外活動に風穴の観察、自然・地域の観察・体験学習に役立てるなど、若年層との連結をはかり、地域学習をアクティブにする新たなツールになる可能性を開くことができる。

 もう一つは学際的なナレッジコモンズの形成を促すことである。私たちは、蚕糸王国信州と風穴の関わりに関心を持ち、蚕糸業、とりわけ蚕種製造に関わる地域資源のアーカイブ化にも取り組んでいる。「全国/地域風穴アーカイブ」というデジタルコモンズが風穴のより学際的な研究の導出、観光資源としての活用、産業創出の施設としての活用などに役立てられていくことを願っている。
 
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